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東京高等裁判所 昭和56年(く)98号 決定

少年 J・T(昭四〇・三・一七生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣旨及び理由は、附添人が提出した抗告申立書に記載されたとおりであるから、これを引用する。

抗告趣旨第一 法令違反の主張について

所論は、要するに、原審は、附添人を、当初指定した昭和五六年四月二二日午前一〇時三〇分の審判期日に、右期日を変更した昭和五六年四月二一日午前一〇時三〇分の期日に、それぞれ呼び出さなかつたため、附添人は、変更期日の直前、保護者よりこれを聞知し、同日に予定していた本件記録の閲覧謄写をしないまま、変更された同日の審判期日を迎えたもので、附添人に対し同期日への呼出をしないでした原決定は、少年審判規則二五条二項に違反しており、また、原審が少年の保護司○○○の入廷を認めず、附添人が在廷証人として、少年を小学生のころから家庭教師として指導し、ギターを教授し、今秋スペインに留学させるため尽力しているN、少年の雇用を約し少年の○○会からの脱退確認と同会の少年に対する不干渉、不関与の確約取付をした右○○○の各尋問を請求したのに対し、必要がないとして認めず、同保護司の意見聴取方の申請を合理的理由もなく拒絶したのは、少年法二二条、少年審判規則二九条、三〇条に違反したものであり、さらに、原審が原決定の言渡に際して、単に主文と抗告手続とを述べたに止まり、少年及び保護者に対し、保護処分の趣旨を懇切に説明し、これを充分に理解させるような説明や解説を一切しなかつたのは、同規則三五条一項に違反しており、以上のごとく、原決定には決定に影響を及ぼす法令の違反がある、というのである。

そこで調査するに、本件記録及び当審における事実取調の結果によれば、

(1)  原審は、昭和五六年三月三一日本件の送致を少年の身柄付で受け、同日観護措置決定をし、翌四月一日審判開始決定及び調査命令をすると共に、審判期日を昭和五六年四月二二日午前一〇時三〇分と指定し、少年及び保護者父に対し、審判のための呼出をし、昭和五六年四月三日観護措置更新決定をしたこと。

(2)  少年の保護者により選任された附添人は、昭和五六年四月六日、適式な附添人選任届を原審に提出し、同日受理されたが、原審としては、その際またはその後の相当な期間内に、附添人に対し審判期日への呼出手続をとるべきところ、同手続をした証跡がないこと(もつとも、附添人としても、審判期日の指定された後に附添人選任届を原審に提出したのであるから、審判期日が指定されているか否かを含めて審判手続がいかなる段階にあるかについて、自ら確認すべき附添人としての責任があるであろう。)。

(3)  原審が昭和五六年四月一五日、審判期日を昭和五六年四月二一日午前一〇時三〇分と繰り上げて変更したため、原審裁判所書記官は、変更期日の一週間ないし四、五日前に、電話で右変更決定のあつた旨を附添人の事務員に告知したが、関係人に対する右変更決定の告知の方法、場所及び年月日は、これを決定書等に附記し押印しなければならないのに、同手続をした証跡がなく、その他記録を検討しても、附添人に対し右の事務員に対する告知のほか、右変更決定の告知または変更された審判期日への呼出をしたとは認められないこと。

(4)  附添人としては、本件が身柄事件で、観護措置の残期間が受任日である昭和五六年四月六日から起算して二二日間しかなく、第一回審判期日が右期間満了前に開かれるべきことが自明であるから、速やかに本件記録を閲覧すべきであつて、右記録の量、事案の内容に照らし、比較的短期間の閲覧により容易に事案の要点を把握することができ、要点を絞れば、謄写に要する時間も比較的短くて済み、審判期日前の余裕のある時点で事前準備を了し得たと考えられること。

(5)  家庭裁判所調査官は、昭和五六年四月七日付で少年の保護者母につき、同月一七日付で保護司である株式会社○○紙器工業所取締役社長○○○につき、それぞれ調査した結果をまとめた調査報告書を作成し、同月一七日Nにつき電話で調査した結果をまとめて、同日付電話聴取書を作成し、同月二〇日少年調査票を作成しており、また、東京保護観察所長作成の少年にかかる保護観察状況等報告書が同月九日原審に提出されてはいるが、少年は、昭和五六年三月一一日保護観察決定を受けて程なく本件非行を重ね、同月二〇日逮捕されたため、同報告書には、「開始早々の再非行であり、経過はない。」と記載されていることから、右保護観察は、有名無実に終つたこと。

(6)  附添人は、昭和五六年四月二一日の審判期日に出頭し、証人または参考人として、少年をスペインに留学させることにしている点を立証するためNの、また、少年の保護司として現在の状況、将来自己の許で働かせる意思のある点を立証するため○○○の、各取調を申請したが、原審は、右各立証趣旨の点については既に明瞭となつている等の理由を述べて、右両名の取調等に関する職権発動をしなかつたこと。

(7)  少年は、昭和五六年三月一一日暴力行為等処罰に関する法律違反保護事件につき原審裁判官と同じ裁判官から保護観察決定を受けたが、原審において同裁判官の質問に対し、「前の事件の時の約束を無視したことは、悪かつたと思います。今度は真面目にやりますから、もう一度機会を与えて下さい。」と陳述していること。

(8)  原審は、少年に対し、中等少年院送致決定を言い渡した際、少年及び保護者に対し、保護処分の趣旨を簡明に説明したこと。

以上の事実を認めることができる。

右事実によれば、原審は、附添人に対し、本件審判期日が昭和五六年四月一五日付で同月二二日午前一〇時三〇分から同月二一日午前一〇時三〇分に変更された旨の決定の告知または審判期日への呼出手続を、少年審判規則一六条の二を考慮に入れても適式に履践したとは認められないので、原審の手続に少年審判規則二五条二項の違反があるといわざるを得ない。しかしながら、附添人は、右審判期日に現実に出頭し、右の点についてなんらの異議を述べることなく、また、審判期日の延期を求めることもなく、相応の附添人としての活動をしていることが認められるのみならず、本件記録の閲覧謄写は附添人が選任された同年四月六日以降何時でもなし得た筈であり、殊に観護措置のとられていた本件の場合、附添人としては可能なかぎり早期に記録の検討を終えておくべき職責があつたことは明らかであつて、附添人が審判期日までに記録を閲覧謄写し得なかつた原因が一にかかつて審判期日変更決定の不告知または変更期日への呼出手続の欠如にあるとすることはできないから、右の法令違反は、本件決定に影響を及ぼすものとは認めがたい。

次に、保護司は、審判期日に無条件に出席する権利を有する者ではない上、前記調査報告書、電話聴取書及び少年調査票並びに前記保護観察状況等報告書等を事前に検討した原審が、審判期日に附添人申請のN、○○○の取調ないし○○の意見陳述聴取の必要がないとして同人らの取調等につき職権を発動しなかつたのは、合理的かつ相当というべきであつて、毫も少年法二二条、少年審判規則二九条、三〇条に違反するものではない。

更に、同規則三五条一項に規定する説明などをした点は、審判調書の必要的記載事項ではないから、本件審判調書にその旨の記載がないことから同条違反があつたと即断することはできないばかりか、原審裁判官は、本件の審判に先立つ昭和五六年三月一一日、少年に対する暴力行為等処罰に関する法律違反保護事件につき、少年、保護者父母、附添人弁護士○△○○出席の審判廷で、少年に対し保護観察決定を言い渡した際、保護観察処分の趣旨、保護観察中に再非行に及んだ場合に予測される処分などについて説明し、理解させていたと推認されるのであつて、このことは審判調書中、少年の「前の事件の時の約束を無視したことは、悪かつたと思います。今度は真面目にやりますから、もう一度機会を与えて下さい。」との陳述記載によつて充分裏付けられているというべきであり、右経緯に加えて、本件審判の際にも、少年院送致処分の趣旨を簡明に説明したことが明らかであつて、原審が本件保護処分の言渡において、同条項の説明等を一切しなかつた法令違反があるとの所論は、前提を欠くものであるから採用しがたい。結局、原決定には所論各指摘のごとき決定に影響を及ぼす法令の違反は認められない。

論旨は、いずれも理由がない。

抗告趣意第二 事実誤認の主張について

所論は、要するに、少年は、一六歳で社会的経験も乏しく恐喝罪についての知識を持つていないのであるから、結果として恐喝罪を自認したとしても、自白といえるか疑問であり、原判示恐喝未遂の共犯者であるAは、処分保留のまま釈放され、また、原判示威力業務妨害の共犯者である成人五名は、同事件につき罰金か処分保留で釈放され、正式裁判で有罪が確定した共犯者が一人もいないのであつて、かかる処分結果及び共犯との年齢差等を考えると、原判示罪となるべき事実が有罪か否か疑問があり、少年を有罪とした原決定は、事実を誤認したものである、というのである。

しかし、記録によれば、少年は、恐喝未遂の事実については捜査官に対し、頑強に脅迫文言を否認していたところ、原審において「その通りです。」と述べたが、右は自己に不利な事実を事実として認めたもので、恐喝罪に関する知識の有無とは関係のないものであるから、自白というに妨げはなく、また、共犯者の処分結果、年齢差を事実誤認の理由とする所論は、主張自体失当といわなければならないのであるが、なお、所論にかんがみ調査するに、記録に基づいて検討すれば、原決定が「(罪となるべき事実)」として認定判示するところは、後記指摘の部分を除き、是認することができる。すなわち、記録によれば、

1  少年は、中学二年生の昭和五三年六月ころ○○青年評議会○○青年同盟の隊員となり、中学卒業後、右同盟青年行動副隊長となつた者であるが、昭和五六年三月一一日前記事件につき保護観察決定を受けて東京少年鑑別所を出所し、同月一四日、右事件の共犯で罰金刑に処せられ、さきに釈放されていた○○連合○△会行動隊長Aに釈放された旨電話連絡したところ、同人から東京都中野区○○付近のスナツクで放免祝を受けた。

2  少年は、同日午後一〇時ころ、同人を案内して原判示○○に赴き、コーヒーを飲んでいたが、少年において同店経営者Kに対し、「お前のところは店頭の看板にウエイトレスの身体にさわつたり、スカートをめくつたり、下からのぞいたり、ウエイトレスと長い会話をすることを禁止する。これを破つた場合は五倍の料金と退店をさせるとあるが、それはどういうことだ。酔つた客だつたら喧嘩になる。暴力喫茶ではないか。」と申し向けたところ、Kが「それでは五倍の料金は消します。」というや、自己の名刺を出し、「うちがそこにあるのを知つているのか。」と尋ねたのに対し、Kが「○○署から聞いて知つている。」と答えると、「この辺は、Bからうちの会長が島を借りているところだから、店を開いている者から賛助金を貰つている。お宅も協力してくれ。ほかからやくざ者がきたらどうするのだ。」といつたのに対し、Kが「警察に電話する。」と返事をするや、「そんなことはしないで、うちの事務所が近いから、うちでみんなやつてやる。協力しないなら、店の前に宣伝カーを持つてきたり、うちの特攻服を着た連中が店に来る。そうすると客はこなくなるぞ。池袋のCのところだつたら、一口一〇万円だ。うちの会長は話がわかる。一口一万円で月一回の集金をする。」などと申し向けて脅迫し、Kに対し、賛助金名下に金員の拠出を需めたが、傍らにいたAは、少年の所為に賛同する意思がなかつたばかりか、少年とは所属団体を異にし、同人と立場が違い、同人の所為とは無関係であることを明らかにする趣旨で、○△会名を付した自己の名刺をKに渡したこと。しかしKは、少年の右言辞を聞き、右要求に応じなければ自己の身体や開店後間もない○○などにいかなる危害を加えられるかもしれないと恐ろしくなり、月一万円を払つた方がいいと思い、少年に月の二七、八日に払う旨返答したこと。

3  少年は、翌一五日東京都中野区○○×丁目××番×号○○マンシヨン内の右同盟事務所で、右同盟の会長DにKが月一万円ずつ賛助金を出してくれるといつている旨報告したところ、Dは、Kに電話で「お宅は賛助金を入れてくれるそうだが。」との旨述べたのに対し、同人は、「他に相談するところがあります。あさつて電話します。」と返辞をしたが、これを聞いたDがKの返事があいまいであるとして立腹したことも、同人に圧力を加えるよう少年に指示したことも認められないこと。しかし少年は、Dから、Kの右電話による応答内容が「時間がないので、あさつて電話する。」というものであつたことを聞き、自己に対する約束と異り、即座に賛助金拠出を承諾したものでないことに不満を覚え、そのころ、後記4、5の所為を含む一連の言動に徴し、Kや○○に威圧を加えようと考えたと推認されること。

4  少年は、明くる一六日、右同盟の街頭宣伝活動を終えて右同盟事務所に戻る途中の宣伝車中で、隊員のEらと○○へ行こうと話し合い、同日午後五時三〇分ころ、右同盟の隊服(警察機動隊の出動服に似た紺色の着衣)のままE、F、Gを誘つて同店に赴き、同店奥の二卓ばかりの椅子を占めて、ミルクを飲みながらノーパンテイのウエイトレスの姿態を眺め回すなどして同店内に異様な雰囲気を醸成し、同店従業員らをして嫌悪、畏怖の念を催さしめたが、Fは一〇分ほどして帰り、その後隊服姿のH、Iが来店してほどなくEも帰つたこと。

5  前々日少年から脅迫されて金員を要求され、前日Dからの電話を受けたため、右一六日の午後、○○警察署に相談に赴き、同日午後六時三〇分ころ○○に出勤したKは、折柄在店の少年に対し、「明日電話します。」と述べ、少年からHを紹介され、同人から右同盟青年行動隊長Hの名刺を渡されたが、そのころ少年は、Gと共に退店したこと。

6  同店に残つたHは、Kから「隊服で店へ来ないで下さい。」といわれるや、Iに向つて、他の客に聞えよがしに、「どつちが長くいるか競争しようか。この前の店では、お前は開店から閉店まで頑張つたなあ。」と申し向け、同店従業員や周囲の客に嫌悪、畏怖、不快の念を与えたこと。

7  少年らの以上の行動等により、同店のウエイトレスは、畏怖して同月一七、一八日に出勤しなかつたこと。

8  Kは、少年から賛助金の拠出方を要求されて畏怖したため、一たんはこれを約したものの、同月一七日○○警察署に被害を申告し、少年の右要求に応じなかつたため、少年は、金員喝取の目的を遂げなかつたこと。

以上の事実を認めることができ、これに反する少年の原審審判廷における供述及び捜査官に対する各供述調書並びにKの司法警察員に対する昭和五六年三月一七日付供述調書(署名に「L」とあるのは「K」と認める。)及び検察官に対する供述調書謄本、Mの司法警察員に対する供述調書謄本、Aの司法警察員に対する供述調書謄本は、他の関係各証拠に照らして措信しがたい。

右事実によれば、少年は、○○青年評議会○○青年同盟の青年行動副隊長をしていた者であるところ、(一)昭和五六年三月一四日午後一〇時ころ、東京都中野区○○×丁目××番××号○○方二階のノーパンテイ喫茶珈琲館○○において、同店経営者K(原決定に「L」とあるが、上記を正確と認める。)に対し、「お前のところは店頭の看板にウエイトレスの身体にさわつたり、スカートをめくつたり、下からのぞいたり、ウエイトレスと長い会話をすることを禁止する。これを破つた場合は五倍の料金と退店をさせるとあるが、酔つた客だつたら喧嘩になる。暴力喫茶ではないか。」と申し向け、Kが「それでは五倍の料金を消します。」というや、自己の名刺を差し出し、「うちがそこにあるのを知つているか。」と問い、Kから「○○署から聞いて知つている。」と答えると、「この辺は、Bからうちの会長が島を借りているところだから、店を開いている者から賛助金を貰つている。お宅も協力してくれ。ほかからやくざ者がきたらどうするのだ。」と述べたのに対し、Kから警察に電話するといわれ、「そんなことはしないで、うちの事務所が近いから、うちでみんなやつてやる。協力しないなら、店の前に宣伝カーを持つてきたり、うちの特攻服を着た連中が店にくる。そうすると客がこなくなるぞ。池袋のCのところだつたら一口一〇万円だ。うちの会長は話がわかる。一口一万円で月一回の集金をする。」などと申し向けて脅迫し、Kをして右要求に応じなければ、同人の身体や○○の営業などにいかなる危害を加えられるかもしれないと畏怖させ、月々一万円の賛助金を拠出する旨の約束をさせたが、同人が同月一七日○○警察署に被害を届け出て、右要求に応じなかつたため、金員喝取の目的を遂げず、(二)同月一五日同盟の会長DにKが賛助金を拠出する旨を報告し、DがKに電話でこれを確認したのに対し、同人からの返事があさつて電話する旨のものであつたことに不満を覚え、警察機動隊の紺色出動服類似の右同盟の隊服を着た隊員を伴つて○○に赴き、威力を示してKの右約束の実行を確実ならしめようと考え、同月一六日午後五時三〇分ころ、街頭宣伝活動を終えた隊服姿のままのF、E(原決定に「J」とあるのは誤記と認める。)、Gを伴い、自らも隊服姿のまま○○に赴き同店の一部の客席を占め、ウエイトレスの姿態を眺め回すなどし、同日午後六時三〇分ころまでの間同店内に留まり、右服装、多数の勢力を示して同店従業員らに嫌悪、畏怖の念を生じさせて○○の業務を妨害したことが明らかであつて、右判断と同旨の、すなわち、少年が原判示(1)の日時場所でKに対し、右(一)の脅迫文言を弄して同人を畏怖させ、同判示約束をさせたが、同人がこれを実行しなかつたため、その目的を遂げず、原判示(2)の日時場所で前記(二)の隊服を着たままFほか二名の隊員を伴つて○○に赴き、客席の一部を占め、同店の営業を妨害したという限度で、原決定の認定した事実には誤認はないといわなければならない。

しかし、少年が、前記(一)として判断した犯行につきAと共謀したことを認めるに足りる証拠はなく、同人が少年の右犯行の際Kに対し、自己の名刺を渡したのは、Aが少年と所属団体を異にし、少年の行為と無関係であることを暗に示すためにしたもので、Aに恐喝の犯意は認めがたく、また、少年がKに対し、「こんな店をつぶすのはわけがない。」と申し向けたとの点は、Kが検察官に対し、少年は店をつぶすというようなことは直接にはいわなかつた旨、司法警察員に対する供述を訂正する供述をしていることに徴すれば、これを認めがたく、前記(二)として判断した犯行をするにあたり前記H、F、E、I、Gと共謀したとの点は、本件全証拠によつても認めるに足らず、HがIに対し、原判示(2)のごとき言辞を弄したのは、少年が○○を退出した後のことで、Hの単独行為と認められるから、「(罪となるべき事実)」(1)のうち、「Aと共謀のうえ、」、「こんな店をつぶすのはわけがない」、(2)のうち、「上記同盟の青年行動隊長であるH及び隊員であるF、E、I、Gらと共謀のうえ、」、『客及び店員に聞えるような大声で、Hが、Iに対し、「この前の店のときは、お前は開店から閉店まで店でがんばつたな。」と申し向けるなどして、』とそれぞれ認定した原決定には、事実の誤認があるといわなければならないが、これらの事実誤認は、いずれも決定に影響を及ぼすものではない。(原判示(2)のうち、「同人があいまいな返事をしたため立腹し、」、「午後五時頃………その間約二時間に亘つて」とあるのは、表現においてやや不正確で、それぞれ「同人の返事があさつて電話する旨のものであつたことに不満を覚え、隊服を着た仲間を伴い○○で威力を示し、上記約束の実行を確実ならしめようと考え、」、「午後五時三〇分頃、隊服姿のままのF、E、Gを伴い、自らも隊服姿のまま○○に赴き、同店内の一部客席を占めて、ウエイトレスの姿態を眺め回すなどし、同日午後六時三〇分頃までの間同店内に留まり、右服装、多数の勢力を示して同店従業員らに嫌悪、畏怖の念を生じさせて○○の営業を妨害した」とするのが相当であろう。)

論旨は理由がない。

なお、職権により検討するに、本件事案の真相が前記(一)、(二)として判断したとおりである以上、恐喝未遂、威力業務妨害の右各所為につき各刑法六〇条を適用した原決定には、法令適用の誤があるといわなければならないが、右誤は、決定に影響を及ぼすものとは認められない。

抗告趣意第三 処分不当の主張について

所論は、要するに、仮に少年が有罪であるとしても、少年を中等少年院に送致した原決定の処分が著るしく不当である、というのである。

そこで調査するに、本件は、少年が(イ)原判示(1)の日時場所でKに対し、前記(一)のごとく脅迫を加えて同人を畏怖させ、賛助金名下に金員を喝取しようとしたが未遂に終り、(ロ)原判示(2)の日時場所で前記(二)のごとく前記隊服のまま仲間三名を伴つて客席の一部を占め、その服装、多数の勢力を示して○○の従業員らに嫌悪畏怖の念を生じさせて同店の営業を妨害した、という事案である。ところで、少年は、中学二年生ころから喫煙、飲酒、シンナー吸入を始め、父母から離れて異母兄の居住するアパートの一室に居住し、不良仲間と交わり、昭和五三年九月ころからは、トルエン吸入、喫煙により再三警察に補導されたが素行を修めず、学校内での暴力的行為、授業中の他教室への侵入、オートバイ、普通乗用自動車の無免許運転、他校生との喧嘩などの問題行動が目立つようになり、昭和五四年六月二七日在籍中学校の教諭二名から校則違反の服装などを注意されて、同人らに暴行を加え、同年九月三日同校内でトルエンを吸入するなどし、同日クラス担任教諭からシンナー吸入を注意されるや、同人に暴行を加えて全治四日間を要する傷害を負わせ、同年八月五日第一種原動機付自転車を窃取した傷害等保護事件により、東京家庭裁判所で昭和五四年一〇月二日試験観察決定を受けた後、昭和五五年三月二七日不処分となつたが、昭和五六年二月一五日、Aらと一九歳の少年に共同暴行を加え、昭和五六年三月一一日前記のとおり保護観察決定を受けた。しかるに少年は、それから僅々三日後に前記(一)の、更に二日後に前記(二)の各犯行を重ねたもので、身をもつて在宅補導の不適当であることを実証したばかりか、犯行の重要部分を否認していて、心底からの改悛を認めがたく、誤つた正義観念から何ら謝罪の方途を講じていないことに加えて、知能は普通域にありながら、自我防衛的で自己顕示性が強く、反省心に欠け、他罰的傾向は改善されておらず、非行性は、深化、巧妙化していること、保護者の少年に対する躾の欠如、顕著な他罰的傾向に徴し保護能力に疑問があると認められることなどにかんがみると、少年の健全な育成をはかるには、この際少年を従来の生活環境から引き離して矯正施設に収容し、規律ある集団生活の教育訓練を受けさせ、自省心、自立心、遵法精神を涵養し、社会的適応性を身につけさせるのが相当というべきである。

従つて、原判示(1)が未遂に終つたこと、同(2)の犯行態様が激越とはいえないこと、少年は、一応反省の意を表し、右同盟を脱退し、更生を誓つていること、少年にはギター演奏の才があり、スペインに留学する希望を有し、少年のギター指導者もその実現に熱意を示していること、担当保護司が留学するまでの間、その経営する会社に少年を雇用し、指導監督する意思を表明していることなどの諸事情を能う限り考慮しても、少年を中等少年院に送致した原決定には、処分の著るしい不当があるということはできない。

論旨は理由がない。

よつて、少年法三三条一項後段、少年審判規則五〇条により本件抗告を棄却することとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 船田三雄 裁判官 櫛淵理 門馬良夫)

抗告申立書〈省略〉

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